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洋の東西を問わず、権力と映画はウマが合わない。 歴史上、権力が映画を利用しプロパガンダを作れば、ロクな作品ができた試しはないし、逆に映画が権力を中心化して描こうとするとき、作品としての輝きが損なわれてしまうという罠がある。とくに歴史上の権力者を主人公とする、いわゆる伝記映画は、生まれたときから死ぬ…
舩橋 淳
 来たる3月23日、アテネ・フランセ文化センターと川崎市民ミュージアムを皮切りに、ポルトガルの新鋭監督ジョアン・ペドロ・ロドリゲスのレトロスペクティヴが開催される。ジョアン・ペドロ・ロドリゲスは現在ヨーロッパを中心に高く評価されているが、その作品は未だ日本で上映されたことはない。しかし、今回、映画…
編集部
『ギリギリの女たち』(2011年)を見たのは、昨年秋の第24回東京国際映画祭の特別上映「震災を越えて」でのことだった。小林政弘監督が宮城県気仙沼市の被災地に所有する家を舞台に、震災を機に再会を果たした三姉妹による愛憎劇ということで、上映の枠組みといい、当初は3.11が「フィクション」のスクリーンで…
編集部
 今年のカンヌ映画祭における、テレンス・マリックの最高賞パルム・ドール受賞という何の驚きも無い結末は、映画祭のコンペティションは如何に在るべきかを改めて問いかけた。確かに、圧倒的な映像美によって生命誕生から一組の父子の物語までを綴る壮大な交響詩『ツリー・オブ・ライフ』は、パルム・ドールに相応しい作…
瀬尾尚史
 『ブラック・スワン』は、ナタリー・ポートマン演じるニナが、プリマドンナに選ばれ、不安と苦悩を乗り越え、大成功する話である。 ……と要約しても間違いではないといえば間違いがないのだが、それは所謂一般向けの惹句に過ぎない。確かにストーリーラインだけを見ればその通りであるが、それを期待して観に行くと大…
藤田直哉
 命はどこまで広がりを持っているのだろう? 「幸福な」命と「不幸な」命などというものがあるのだろうか? 私たちは命について人間中心に捉えがちだ。だが、私たち自身から焦点をずらしてみると、まったく異なる世界、そこに息づく「いのち」のサークルが見えてくる。  『四つのいのち』は決して「難解な」フィルム…
インタビュー
 昨年末、ヨーロッパの知人・友人の映画評論家たちが『ソーシャル・ネットワーク』(デヴィッド・フィンチャー監督、2010年)を2010年のベスト10の1本に挙げているのを知った。他でもないFacebook上で見たのだ。離婚した元夫の動向を知るために架空のアカウントを作って「友達」になろうとする元妻、…
石橋今日美
 平倉圭の『ゴダール的方法』は、ひたすらゴダールへ内在するその徹底性において前例を見ない映画論である。著者は、「ゴダールの映画それじたいを分析の方法とする」(12頁)と述べる。知られるように、ゴダールは、編集台における映像と音響のモンタージュによって新たに「思考」を生成させる「方法」を練り上げてき…
三浦哲哉
第12回ビブリオテック文明講座 出演:黒沢清(司会 樋口泰人) イベント内容:映画講演集『黒沢清、21世紀の映画を語る』(boid)の刊行を記念して、黒沢清監督による特別公開講座を開催します。講座のテーマはずばり「答える!」。黒沢監督が、会場のみなさんの質問すべてにお答えします。「映画監督の仕事と…
編集部
"TRON: LEGACY" Film Frame ©Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.  CGを初めて全面的に使用した劇場用長篇『トロン』(スティーヴン・リズバーガー監督、1982)が製作された当時、「カイエ・ドゥ・シネマ」の批評家だったオ…
石橋今日美
 最良の映画はラディカルなシンプルさを獲得する。本年度カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞したアピチャッポン・ウィーラセタクンの新作『ブンミおじさんの森』(『Uncle Boonmee Who Can Recall His Past Lives』アピチャッポン作品としては、ようやく日本初の一般公開…
石橋今日美
 映画と夢は相性がいい。映画自身も夢を描写してきたし、鑑賞者の側も精神分析などを用いて、夢を分析するように映画を解釈してきた。しかも、この「夢」には、睡眠時に見る夢と、願望の投影である夢との両方の意味が託されている。テクノロジーによる芸術であり、同時に大衆娯楽でもあるが故に、映画は資本主義の欲望と…
藤田直哉
コスタ ジャンヌとほかのミュージシャンの間には違いがあります。ジャンヌは歌を歌いたがっていますが、しかし歌手ではありませんし、歌手になろうとしているわけでもありません。毎日スタジオにはいません。ルドルフはといえば、毎日ギターを弾いていて、これまでもずっとレコードを作ってきました。彼はミュージシャン…
インタビュー
Introduction  ペドロ・コスタには、抑圧的な言葉がまとわりつく。それは彼の作品に対する批評に限らず、長い期間スラムで被写体と生活をともにしつつ、ローキーで撮影を進める彼自身の制作姿勢や、さらにはそうして撮り上げられた画面が湛える冷徹な美しさがいやがおうにも見るものの言葉を奪い、やたらな…
インタビュー
 産業の世界に機械が現れてから、生物(オーガニズム)に対する機械(メカニズム)の脅威というものは、労働と関連し、疎外論的な形で何度も語られてきた。ハリウッド映画で何度も語られる「人間vs機械」というテーマは、近代の始まりにまで由来する一つのクリシェのような恐怖と疎外感を反映している。『ターミネータ…
藤田直哉
 今年の閉幕セレモニーの冒頭、司会のクリスティン・スコット・トーマスは、「カンヌ映画祭は映画を護る要塞である」というスティーヴン・スピルバーグの言葉を引用した。映像をめぐる技術革新や、情報ネットワーク環境の変化が映画の在り方を大きく変容させつつあることは言うまでも無く、カンヌ映画祭もまた、そうした…
瀬尾尚史
東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻第4期生・アニメーション専攻第1期生修了作品展 2010年6月19日(土)~7月2日(金)、渋谷・ユーロスペースにて、東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻4期生とアニメーション専攻1期生の修了作品展「GEIDAI-CINEMA#4 GEIDAI-ANIMATIO…
編集部
第2回Bibliothèque文明講座 『東京から 現代アメリカ映画談義──イーストウッド、スピルバーグ、タランティーノ』刊行記念 黒沢清×蓮實重彦トークショー イベント内容:現代日本映画のトップを走る黒沢清監督と、映画の「現在」を見続けている蓮實重彦氏のお2人に、「アメリカ映画」についてとことん…
編集部
Introduction  ミャンマー軍事独裁国家に潜伏したビデオジャーナリスト=VJたちが撮った映像をもとに、2007年に僧侶たちが起こした革命的なデモを描いた 『ビルマVJ 消された革命』。小型デジタルカメラとインターネットという現代のメディアを武器に、顔のない映像作家たちが残した無数の映像の…
インタビュー
第1回Bibliothèque文明講座 『血の玉座—黒澤明と三船敏郎の映画世界』(上島春彦著)刊行記念 上島春彦×吉田広明 日時:2010年5月15日(土)    16:00〜18:00(15:30会場受付開始) 入場料:1,000円(当日精算) 予約制:電話または店頭にて受付     Tel.0…
編集部
 ジェームズ・キャメロンの実に12年ぶりの監督作『アバター』は、最先端の3D(立体)映像技術による圧倒的な視覚体験を堪能できる超大作として、昨年末の公開後、世界的な大ヒットを続けている。その勢いは凄まじく、つい先日は、自らの前作『タイタニック』(1997)が保持していた映画史上最高の興行収入記録を…
渡邉大輔
(Interviewed by Satoshi KUZU, Akira KUDO, Tetsuya MIURA) [japanese] Dust, this tiny object --At first, we would like to ask you a basic question. It …
インタビュー
[英語] Introduction  今年の山形のコンペティションにおいてもっとも奇妙で魅力的な題材を扱ったフィルムは、ハルトムート・ビトムスキーの『塵』だろう。そう、あのチリやホコリの塵である。ビトムスキー監督はドキュメンタリー・フィルムの巨匠として知られ、ストローブ=ユイレやヴィム・ヴェンダー…
インタビュー
Photo by Kat Baulu © 2008 National Film Board of Canada Introduction  著作権に縛られた映像を解放せよ。『RiP! リミックス宣言』はその明快なメッセージを、既存の映像をめまぐるしく 「リミックス」する手法で身をもって示す映像作品…
インタビュー
2010年1月23日~29日、横浜黄金町「シネマ・ジャック&ベティ」にて、期待の若手監督の作品を集めた特集上映「未来の巨匠たち」を開催します。 特集する監督は、瀬田なつき、加藤直輝、小出豊、佐藤央、三宅唱、濱口竜介のほか、女性たちの上映団体〈桃まつり〉から片桐絵梨子と矢部真弓。そして関西からは、つ…
編集部
 香港国際映画祭会期中の見本市FILMARTで見たオムニバス作品『台北24時』が、東京国際映画祭でお披露目となった。上映にあわせて、8つのエピソードの中で秀逸の仕上がりだった短編 “Remembrance”の監督リー・カンションが来日。ツァイ・ミンリャン監督が俳優として登場する点でも見逃せない本作…
インタビュー
審査員。左から ジャン=フランソワ・ロジェ(シネマテーク・フランセーズ・プログラム・ディレクター)、ジョヴァンナ・フルヴィ(トロント国際映画祭アジア映画プログラマー)、崔 洋一(映画監督/第10回東京フィルメックス審査委員長)、チェン・シャンチー(俳優)、ロウ・イエ(映画監督)  なかなか平日フィ…
石橋今日美
【セッション1】装置間の争い ── 映像メディアの混淆とその体験  基調講演に続く「セッション1」では、堀潤之の司会のもと、コメンテーターの武田潔とトロン・ルンデモによって、ベルールが提起した問題への応答と展開がなされた。  武田潔は、かつてクリスチャン・メッツのもとで学び、フランスを中心とした映…
三浦哲哉
ヨコハマ国際映像祭2009 CREAMフォーラム 基調講演 「35年後──「見出せないテクスト」再考」 「今、わたしたちは映像の海を前にして毎日生活をしています」と、この映像祭のパンフレットには書かれている。従来型の「映画祭」ではなく「映像祭」を開催することの意義がここに集約されている。事実、…
三浦哲哉
万田邦敏著『再履修 とっても恥ずかしゼミナール』(港の人刊)  万田邦敏の批評集は「恥ずかしさ」を主題に書かれた点で、本当に希有で啓発的な書物だと思う。万田のいう「恥ずかしさ」とは、1970年代に「新人類」と呼ばれた同世代のパロディ感覚やシラケの感覚とは、無関係ではないけれども、しかし似て非なるも…
三浦哲哉
 今年のロッテルダム国際映画祭タイガー・アワード(新人監督に与えられるグランプリ)に輝いた3作品のうちの1本『息もできない』(英題『Breathless』。来春シネマライズにてロードショー公開予定)を見る。監督ヤン・イクチュンは、短編『Always Behind You』(2005)で監督デビュー…
石橋今日美
 今年で10回目を迎えた東京フィルメックスのオープニングを飾ったのは、今年のカンヌ国際映画祭コンペティションをはじめ、各国のフェスティバルで上映されたツァイ・ミンリャン監督の10作目、『Visage』(英題『Face』)。以前本サイトでも触れたが、オルセー美術館×ホウ・シャオシェン(『ホウ・シャオ…
石橋今日美
 作品はいつの間にか始まっている。この作品の制作会社などのロゴが表示され、しばしの黒画面が映し出されている時点で、ラジオのチャンネルが何度か切り替えられる音が聞こえてくる。この音は、すでに映画の中の音であり、それを観客は映画の中へと入り込むちょっと前から聞かされることになる。  黒画面からイギリス…
工藤 鑑
国際会議『SOUND CONTINUUM』 21世紀の録音文化を問う国際会議 「録音」という領域が、従来の音楽史や映画史の中で、明確に意識化され語られる機会はこれまでありませんでした。それは、録音が音楽や映画に従属する技術としてのみ捉えられてきたからにほかならないのではないでしょうか?メディア技術…
編集部
 来年度の国際映画祭サーキットで再び話題をよびそうな石井裕也監督の新作『君と歩こう』(『川の底からこんにちは』[2009]とともに2010年劇場公開予定)。本サイトでもすでに取り上げた独自の石井ワールドが、いかなる変貌をとげているのか、海外からのゲストも興味津々。『君と歩こう』は、片田舎の女性英語…
石橋今日美
 今年1月〜2月初頭に開催されたロッテルダム国際映画祭では、トルコ映画特集が組まれていた。偶然だが、世界各国の監督の長編第1、2作を集めたコンペティション部門でタイガーアワードを受賞した3本のうちの1本が、トルコ出身のマフムト・ファズル・ジョシュクンの『二つのロザリオ』(2009)だった。“Wro…
石橋今日美
「写真/瀧本幹也」  是枝裕和の長編劇映画第7作『空気人形』は、突然人間と同じ「心」を持ってしまったラブドール(=「空気人形」)のはかない恋模様をめぐる寓意的な「ファンタジック・ラブストーリー」として、現在話題を集めている。  レヴューの読者はいささか面食らうかもしれないが、最初にこの映画に関する…
渡邉大輔
 “Action ! For Earth”とエコ・環境問題に対するメッセージをより強く打ち出した第22回東京国際映画祭が10月17日より開幕した。今年は『アモーレス・ペレス』(2000)、『バベル』(2006)で知られるメキシコ出身の映画監督アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥを審査委員長に、1…
石橋今日美
オルタナティブ・シネマ 時代の未明から来るべき映画たち 『ラザロ-LAZARUS-』(井土紀州)、『国道20号線』(富田克也)、『へばの』(木村文洋)といった、製作から配給宣伝までを、すべて自らの手で行うインディペンデント映画が増えつつある。これはインディペンデント映画の新たな可能性の兆候な…
編集部
 『シネマ坊主』シリーズとして単行本化された松本人志の映画コラムは、既存の映画がいかに無意味な約束事にしばられているかをその都度、指摘していくことによって延々と書き継がれていた。不自然なハッピーエンドやお約束のセリフ、どうして映画だとこれらが許されるのか。そう語ってきた松本は、自分で撮る側にまわっ…
三浦哲哉
 ポーランド第四の都市、ヴロツワフ。第二次世界大戦後まで続いたドイツによる占領をはじめ、さまざまな国の支配を受けてきた古都には、ポーランド市民の独立の象徴、コシュチェンコの戦いを描いたパノラマ(映画以前に誕生したご存じのパノラマ)が、現在でも名所のひとつとなっている。オドラ川がなす中洲とレンガ造り…
石橋今日美
Chris Watson: Field Recording Workshop クリス・ワトソン:フィールド・レコーディング・ワークショップ 世界的知名度を誇るフィールド・レコーディングの第一人者、クリス・ワトソンが録音について公開ワークショップを実施します。BBCドキュメンタリーでの野生動物や自然…
編集部
第2部 2-1 プログラムピクチャーについて ──プログラムピクチャーが量産されていた時代には、2本立て興行の添え物の低予算映画の方に新人があてがわれるため、そこから意欲的な作品が登場するというような現象が多くあったようですね。内藤監督もそのような状況から出発されたわけですが、当時の低予算映画はど…
インタビュー
第1部 1-1 ヌーヴェルヴァーグの季節に撮影所へ入る ──東映の撮影所に入られたときの雰囲気っていうのはどういう感じがしましたか。 内藤:あれは、1959年。うん昭和34年の4月からだった。とにかく、京都はこわいっていうふうには思ってたね。まぁ時代劇はあんまり性に合わないと思ってた。どうせフィク…
インタビュー
INTRODUCTION  1973年に制作・公開されたカルトムービー『番格ロック』が、このところ頻繁に名画座やCSで頻繁に上映・放映されている。上映を行った名画座ではレイトショウの動員記録を作ったという噂を聞くし、また、この8月には内藤誠監督の論考を含む書籍『戦う女たち──日本映画の女性アクショ…
インタビュー
マノエル・デ・オリヴェイラは、その100歳を祝う昨年のカンヌ映画祭のイヴェントで、「作家の映画」を飛行機に喩えたフェリーニの言葉を引用しつつ、「映画祭とは空港であり、カンヌは最も美しい空港である」と述べた。 ケン・ローチ、マルコ・ベロッキオ、ミヒャエル・ハネケ、ラース・フォン・トリアー、ペドロ・ア…
瀬尾尚史
 『グラン・トリノ』については、すでに有り余るほど多くの言葉が費やされている。この映画の物語は、人生に踏み出すことと老いていくこととの物語、贖罪の物語、正義と暴力に関する物語、文化・民族・世代の衝突ならびに融和の物語としてもっぱら読まれているだろうけれど、その一方、「アメリカ」そのものの寓話として…
篠儀直子
 カンヌ国際映画祭が開幕した。今年は世界的な不景気のために、映画祭開催直前までホテルには空室があり、アメリカのメジャーの巨大な広告パネルも見かけないという。イギリス系出版社ファイドンに買収されたカイエ・デュ・シネマの批評家たちは、噂では自費で宿泊費をまかなわなければならないとか。  不況という言葉…
石橋今日美
 すでに小さな話題になっているようであるが、『月夜のバニー』の主人公の母親役に私もいたく感銘を受けた。皺の刻まれた夏木マリ系の相貌が未だにひとまわり年下の男と寝もする女性の深い業を感じさせ、また、相手への半ば軽蔑の色をたたえたその眼差しは長い年月をかけてあらゆる幻滅に馴れていった年増女の凄みを感じ…
三浦哲哉
 まだ肌寒い夜道を歩いていると、不意に甘やかな香りに包まれる。闇の中で甘美な罠に落ちてしまったかのように。寒空を見上げると満開の白梅。デリケートで健気でありながら、凛と咲き誇る力強さに満ちている。若手女性監督の作品をより多くの人に届けるために立ち上がった、映画製作上映団体“桃まつり”。昨年話題を呼…
インタビュー
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